
発達によりそう「子どもが歌いやすい歌」を知り、
自信を持って
音楽を楽しめる子どもに!
乳幼児が歌う機会がぐっと増える、保育園や幼稚園。「入園前に歌の練習をした方がいいのだろうか」「うちの子が、保育参観で歌を歌えていなかった……」そんなお悩みを持つ保護者の方もいらっしゃるかもしれません。今回、Singing編集部は、子どもたちの歌唱発達を研究し、「乳幼児が歌いやすい歌」の制作に至った大阪樟蔭女子大学の渕田陽子先生に、子どもと取り組む「歌の楽しみ方」について伺いました。乳幼児を育てる保護者のみなさま、必見です!
乳幼児の歌唱発達に合わせた
「子どもが歌いやすい歌」がある
子どもが歌いやすいのは覚えやすい歌、つまり、単純な歌詞とメロディでできた歌です。歌詞は、乳幼児が日頃から使う言葉や、ドキドキ、ワンワン、ペコペコのようなオノマトペや、ゴーゴー、ヤッホー、オーのような掛け声的な単語が使われていること、3つの単語をつなげた「3語文」までであることがポイントです。
また、メロディはひとつのフレーズが8拍まで構成されていてあわただしくないもの、そして同じフレーズが1曲の中に2回以上含まれている曲が歌いやすいと言えます。例として「かえるのがっしょう」などがあります。
一般童謡等で歌いやすい歌は「チューリップ」、「ちょうちょ」、「キラキラ星」、「先生とおともだち」、「カレーライスの歌」、「まつぼっくり」、「雪」、「ひげじいさん」、「ガタガタバス(フィンランドのあそび歌)」、「列車ははしる(アメリカ民謡)」、「あたま、かた、ひざ、あし(イギリスのあそび歌)」などがおすすめです。
数年前に、家庭環境の調査をしましたが大きな影響はないようです。ただ、事例が少ないのですが、歌好きのお子さんの保護者は「お風呂に入ったとき、子どもと一緒に歌っている」と仰っていました。リラックスできて、声が響くお風呂での歌唱は、子どもが歌好きになるポイントなのかもしれません。子どもたちは歌で遊び、楽しみながら歌うことで音楽表現を育んでいきます。保育者には、子どもの歌唱発達にあわせた支援が求められます。
1歳半から3歳までの子どもの歌唱発達を調べたところ、保育者が歌ったとき、動き・歌詞・メロディのそれぞれにリアクションがありました。
動きについては、調査を開始した1歳6か月で、すでに音楽に合わせて身体全体を動かしていました。音楽に合わせて身体を動かすことで、楽曲全体の流れを把握しているようです。
歌詞については、1歳11か月頃からはオノマトペを、2歳1か月頃には歌詞の後半(「まいごのまいごのこねこちゃん」*の「こねこちゃん」の部分)を歌えるようになります。歌詞の単語の最後(「だれですかー」の「かー」の部分)を歌うようになります。子どもは、歌の初めから歌わずに、歌の途中から歌うのです。
メロディについては、2歳5か月頃になると、保育者の歌に合わせて口を小さく動かすことがあり、歌詞を歌わずにメロディを口ずさむことがあります。動きの発達・歌詞を歌う発達・メロディを歌う発達が合わさって、2歳7か月頃には、1曲を歌えるようになります(歌唱発達には個人差があり、2歳前半で1曲を歌えるお子さんもおられます)。
*「いぬのおまわりさん」より(作詞:佐藤義美、作曲:大中 恩)

多感な子どもを、
折々で励ましてくれる「歌のチカラ」。
転んでしまった子どもが、保護者から励ましのわらべ唄を歌ってもらって元気になったり、ニンジンなど苦手な食材を食べるために自分で即興歌を作って鼓舞して食べられるようになった姿を見たときは、“歌のチカラ”を感じました。
その他にも、取り組んだことが思うように進まず落ち込んだり、先生に注意されて元気が出ないときなど、リズミカルな歌を先生や友達と歌っている間に、気分が晴れたように笑顔になる子どもの姿も印象的です。自分が歌いたいときに、歌いたい歌を歌う、また、身近な大人が子どものために歌ってあげることで、子どもたちが気持ちを立て直した場面を数多く見てきました。
歌には想像を超えるチカラがあります。「誰かに強制されて歌う」のではなく、「自分が歌いたいから歌う」シーンが、どんどん増えてほしいと思っています。